#2

 拝啓

 春眠暁を覚えずと申しますが、いかがお過ごしですか。恐らくなにも変わりないことと存じますが、眠ってばかりで掃除を怠っているのではないか、と危惧しています。

 東北の地はやはり肌寒く、早くも東京の気候が恋しいです。

 さて、先日した話を覚えていますか。
 生まれてから10,000日目の話です。誕生日ではないが、ひとまず、おめでとう。
 本来なら誕生日にきちんと伝えるべきことだと分かってはいます。ですが貴方もご存知の通り私はひどく口下手なので、面と向かって言葉を尽くすことはどうやら未だに難しいようなのです。プレゼントを無愛想に渡すだけで精一杯で、来年こそは、来年こそは、と思いながらもう10年以上経ってしまいました。
 だから1万日目という今日、こうして慣れない手紙などを書いてみるに至ったというわけです。さすがに10万日目まで生きているのは難しいでしょうから、持ち越しは許されませんので。

 10年、と文字にすると大層な長さのように感じますが、振り返ればなんともあっという間でした。
 貴方と出会い、プレーを共にするようになった頃のころは、今でもよく覚えています。というより、忘れることなどできるはずがありません。私の人生の全ては、貴方に出会ったことで変わったのですから。
 もし貴方に出会わなかったら、あるいは貴方と決別する道に入っていたらと考えることが、実はよくありました。そういった不安を漏らす貴方をいつもすげなく鼻で笑っていたことを、ここで懺悔させて下さい。
 貴方は私と違って人付き合いも上手く、聡明で、きっとどんな環境でも幸福を掴むことが出来うる人間だと今でも思うのです。
 けれど、そういったことが問題ではないのだということを、きちんと解っているつもりです。
 「幸福」とは何か、などという哲学的な問答がしたいわけではありませんし、そんなことは物好きの学者にやらせておけばいいことです。ただ私は私の幸福と、貴方の幸福だけ知っていればいいということです。

 貴方が生まれ、今日まで生きてきてくれたことに感謝しています。
 私の計算が正確ならば、貴方がこの手紙を読んでいる今日は、私が貴方に出会って4385日目になります。貴方からしてみればもう200日ほど長いものだと思いますが。
 随分と長い時間が経ったような気がしていましたが、まだ半分にも満たないのだと思うと少しもどかしく感じます。

 最後に、私は誰かに代筆を頼んだわけでもゴーストライターがいるわけでもありません。
 あらぬ疑いを持たれては困るので、一応念を押しておきます。

 10,000日目の記念に、おめでとう。愛しています。
 それでは、次は直接お会いする時に。

 敬具